・特別企画・

おかえりなさいインタビュー

大場満郎

自立と認識を体得せよ。

大いなる「冒険魂」の根幹にせまる

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MITURO OHBA

 前人未到の″北極海単独徒歩横断″をなしとげた大場満郎さんが、八月十日に行われた、成功記念イベントに出席するため故郷入りした。
 そこで本紙では、級生であり友人の木村喜実生さん(大場満郎後援会幹事・法田下)との対談をとおして、大場さんの″冒険魂″の恨幹の部分にせまってみた。
 死と直面しながらも北極海横断にこだわり続けた理由、
大いなる夢に向かって懸命に生きることの大切さなど、
郷里に生きる私たちへの大場さんからの素晴らしいメッセージとして、この対談をご覧いただきたい

自分の頭で考え
自分の体で動かなければ
ものごとの本質は見えてこない

▲眼下に広がる町の景色をながめ、「今回の冒険に
 限らずいつもそうだけど、苦しいとき決まって目
 に浮かぶのがふるさとの景色。山や川や田んぼ、
 そして空気のにおい。この景色が残っている限り、
 おれはいつもふるさとに帰って来る」と大場さん。
 木村 まずは北梅海の単独構断、本当におめでとう。過去三回の失敗に自分を見失う事なく、四回目にしてついに大きな夢を手にした。そこに満郎くんの″すごさ″というか、素晴らしさを感じるよ。おれのような農業者にとっても大いに見習わなければと思ってる。「新しいことに挑戦した。がんばったけど失敗したからやめた。」ではだめだ、逃げてはいけないんだということを、学ばせてもらったな。

 大場 今回の成功で大勢の人から「すごいですね。」と言われるけど、おれ自身は全然そう思わない。やっぱり″好きだからやれた″それが原点だと思うし、嫌いだったら絶対に長続きはしないと思う。それに、おれって不器用だから、何回も痛い目にあって、はじめて体験として覚えていくタイプなんだ。北極海横断一回目の挑戦のときは、ただ恐ろしいだけで何がなんだか分からないうちに失敗し、二回目は荷物を軽くし過ぎて失敗三回目は重くし過ぎて失敗。そういう維験の積み重ねが、″よし、今度はこうしてみるか″となるんだ。

 木村 感心するのは、そうしたなかに″無茶苫茶″というものを一切感じないことだよ。いつもやり直せる余力を残して帰ってくる。これは簡単なようで、なかなか出来るものではないと思う。

 大場 自分の限界を、しっかり『認識』しておくことが大切なんだ、それがないと、おれの場合は極地での冒険だから、死を待つことになる。農業や商売だって同じじゃないかな。自分の能力の限界をしっかり認識しておかないと、一度失敗しただけで再起できないぐらいダメージを受ける。でも本当は、自分の能力を認識するだけでなく、ものごとの本質を″認識″することが最も大切だと思うんだけど。
 木材 これはますます難しい、でも、どうやったらものごとの本質が見えてくるんだろう 

 大場 あんまり偉そうなことは言えないけど、おれの基本は『好きなことをやる。好きなことをやれば、苦労というものを感じない。だから長続きする。長続きすれば少しずつ本質の部分が見えてくる。そうするとうまく事が運ぶ』ということなんだ。それともう一つ、自分で考え自分で行動を起こさなければ、やっぱり本質は見えない。

 木村 満郎くんがいつも言ってる『自立した人間』とは、つまりそういうことなんだろうね。おれの仕事だって同じで、だれかに甘えたり、頼ってばかりいてはろくな成績を残せない。自分の子供にも問い続けてることだけど、肝心なのはおれ自身が″自立してるか″ということだと思っている。


今の子供たちに
一番必要なのは
"自分探しの旅"をさせること


事を正確に認識するには勇気と努力が必要だ。それを避けていては本質が見えてこない。----大場 満郎


なにも冒険の世界に限ったことではない。自立した生き方が今、問われているのでは----木村喜実生

 大場 北極点到達までもう少し、という苦しいとき、最上中学校のみなさんから激励のメッセージをいただき、ずいぶん励まされたな。何十日間、たった一人きりの冒険生活だったから、涙が出るほどうれしかった。本当に感謝してるよ。

 木村 今回の成功で一番深い感動を受けたのは、きっと最上町の子供たちじゃないかと思うけど、そんな子供たちに何かメッセージを伝えて欲しいね。

 大場 これからの長い人生を生きて行くために、できるだけ広い視野とたくさんの選択肢を持って欲しいと思う。おれは中学生のときに、真室川町で鷹匠をしていた沓沢朝治じいさんと出会って、人生観が大きく変わったんだ。「満郎、自分の人生に満足しながらニッコリ笑って死んでいけるのが一番だ。中途半端で挫折して、後悔するような生き方だけはするな。」と教えられたんだ。
 だから小学生、中学生の多感な時期に、いろいろな人に会ったり、いろいろな場所に行って経験を多く積むことが必要だと思う。その経験の中から、自分に一番あったものを発見する。もちろん、自分の意志でやることが前提だけど。
 木村 う〜ん、説得力あるメッーセージだね。さっきの“自立”のところでも話したけど、自分の好きなものを見つける、自分の適性を見つける、そうした『自分探しの旅』が、今の子供たちには必要なんだろうね。親もその後押しをやってあげなければならない。

 大場 そうそう、子供は親の背中を見て育つと言うから、まずは、親自身がそういう生き方をしなければならないと思うな。

 木村 そこが一番痛いところだな。おれも含めて、果たして親自身が自立しているかどうか…。でも、昔の大人はみんな自立していたように思うけどなぁ。

 大場 今みたいに、お金やものが豊富でなかったからだと思うよ。昔の人には「豊かになりたい」という目標があったと思うから。 北極に行くと、何もないから命がけになる。食糧が底を付いた、猛吹雪でテントから一歩も出られない、ソリがこわれた…。いつもそういう環境にいるからこそ、一生懸命に知恵を絞って考える。つまり自立しようとする。そうしているうちに、人生の素晴らしさや命の尊さ、自然のありがたみなどに気づく。ものが豊かすぎると、人間はだらけてくるし、知恵も働かないと思う。

 木村 目標を持つことも大切なんだ。昔の人は豊かになりたい、という目標があったけど、ある程度豊かになった今の時代だから、次なる目標を見いだきなければならない。でもそれは、物質的な豊かさだけでないことは確かだ。


とにかく役割を持つこと
このままでは
日本はだめになってしまう


 大場 冒険を終えて日本に帰ってくる度に感じるんだけど、みんな目がトロ〜ンとしている。ロシアや中国へ行くと、みんな生き生きしてるよ。目もキラキラと輝いてるし。だからおれは思うんだ、国際交流をもっともっと活発化させて、刺激し合うことが必要だと。このままだったら、日本は絶対だめになると思うよ。



おおば・みつろう/44歳。満沢出身。東京都在住。29歳で冒険家を志して上京。アマゾン川イカダ下り成功後、極地冒険に挑む。今年6月24日、4回目の挑戦にして「北極海単独徒歩横断」に成功。

きむら・きみお/45歳。法田下。後援会幹事長。大場さんとは県立農業経営研究所時代の同級生。シメジや舞茸生産の会社を経営し、優れた実績をあげている。
 木村 ちょっと前までは”世界一勤勉な国民”とか”礼儀を重んじる国民””手先の器用な国民”などと言われていたけれど、もうそういう時代ではないと思うね。

 大場 自分の果たす役割を持つことが大切だと思う。エスキモーの子供たちは、みんな自分の役割を持ってるんだ。マイナス四〇度の日でも、小学生の女の子が外へ出て何かやっている。そしたら、オノでコチンコチンに凍った魚を割ってる。「手伝ってやろうか?」と言うと「いいよ、これは私の仕事だから」と。それを犬にエサとして与えるのがその子の家族としての役割なんだ。今の日本で、そういう役割を持っている子供たちは本当に少ないだろうね。


”地球は一つ”を
全ての人々と共有し合う
それが冒険家としての夢だ


 木村 自立し認識し役割を持つ。その部分を後押しするために、冒険家・大場満郎くんとしての存在性が、ますます重要視される時代にあるんじゃないかな。
 次なる目標は「南極横断」と開くけど、それを成功させたら次はどうするのかな。本当はそこが一番聞きたい。

 大場 南極横断は二〜三年後の計画でいるんだ。もうすでに準備も始めてる。今度はただ歩くだけでなく、あらゆる通信システムを使って、世界中の人々と交信しながらやってみたいと思う。「同じ地球にいるけど、これだけの違いがある」ということを、世界中の人々と共有し合える冒険にしたいんだ。
 それが成功したら、どこかの広い原野でも買って、家を建てて住み着きたいと思っている。そこに子供たちを集めて、サバイバルの体験を積ませたいな。キャンプをしたり、冬はソリを引っ張らせたりと…。おれの知ってる様々な海外の人とネットワークを組んで、国際交流も行う。環境問題にも取り組んでみたいと思う。
 そういう活動を地道に積んでいけば、「地球は一つなんだ」という意識が芽生えてくると思うし、地球で暮らす人がいつまでも栄えていくために、これは絶対必要だと思っている。それが冒険家・大場満郎としての夢なんだ。

インタビューを終えて

▼いくら友人とは言え、世界初の大快挙をなしとげた満郎くんとの対談は、浅学非才な私には”相当荷が重い”ことは初めから分かっていた。しかし、世界に通じる一流を極めた男が、この町に、そして私の友人にいたことに、至高の喜びと誇りを感じると同時に、満郎くんの冒険魂を、とことん探り出してみたいという欲求が、今回の対談を引き受けた理由であった。


▼対談を終え、やはりか命がけで取り組んだ人間の言葉には重みがある″ということを、しみじみ感じている。対談でたびたび「自立」と「認識」、そして「役割」という言葉が出てきたけど、まさしくその部分こそが、手足の指の一部を失っても”北極海冒険”に挑み続けた満郎くんの真骨頂なんだろうと思った
▼そして、この崇高なる冒険魂を私たち最上町民がどう受け止めていくべきなのか、今はそんな気持ちでいる。むろん、人間には千差万別の考え方があるから「みんなで満郎くんに学べ」とは言えない。しかし私自身は、対談で満郎くんが語ったメッセージに、これからのまちづくりのなすべき点が凝縮していると確信している。

<木村書実生>


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